院長 平竜三のブログ診察室では伝え切れない、詳しい医療情報を語ります

膝に溜まった水は……

  • 2008.06.02

【10】間違ったウワサに騙されないように!

 整形外科の一般外来診療をしていますと、最も多く見る疾患・症状は、肩こり・腰痛、そして膝の痛みです。

 
 我が国で膝の痛みをもたらす疾患として最も多いのが、「変形性膝関節症」(へんけいせいひざかんせつしょう。以下「膝関節症」と略)です。特徴としては、O脚で肥満気味の中高年女性に発症しやすく、まず膝の内側が立ち上がり時や歩き始めの時や階段の上り下りで痛みを感じるようになります。正座は非常に困難です。放って置くと徐々に普通の平地歩行でも痛みが強くなり、夜間もずきずきと痛みが出現し、膝に水が溜まるようになってきます。次第にO脚が目立ち変形が進行して、歩行が非常に困難になるので歩かないようになり、全身的な体力や筋力も低下する原因となります。

 
 当院にも膝関節症の患者さんが多く通院されています。初診までの経過を尋ねると、接骨院・整骨院・鍼灸院などで、マッサージ・電気治療・鍼灸治療などを受けてこられた方も珍しくありません。膝関節症ではしばしば関節内に過剰な水(関節液)が溜まり、お皿の骨の上の部分が溜まった水で膨らんでしまうことがあります。

 過剰な関節液は後に述べるように有害な作用があり、注射器で排出する必要がありますが、その旨を説明すると多くの患者さんは、
「膝の水は抜いてはいけないといわれた」
「注射器で抜くとクセになってかえって悪くなると言われた」
ということをおっしゃられます。

 
 私は以前は宮城県を中心として東北地方の幾つかの病院勤務を経験しました。都市部の病院から、小さな町の診療所まで、色々な病院で整形外科の診療をしましたが、その時に気付いたのは、どこの病院でも患者さんは膝の水に関して、上記と同じようなことを言われるということです。

 整形外科医の仲間の話を聞いても、大都会から山間部・海辺の町まで全国津々浦々、患者さんの間では「膝の水は抜いてはいけない」という伝説が行き渡ってしまっているようなのです。

 噂の力はスゴイですねー。

 
 この噂、正に「膝の水 伝説」ですが、医学的には全くの誤りです。

 症状を改善し、関節障害の進行抑制のためにも、膝関節内に過剰に溜まった水は排出すべきです。

 これは整形外科分野の長年の医学的研究で結論が出ていることです。

 整形外科の病院では実際には注射器で吸い出して、同時にヒアルロン酸などの潤滑剤を関節内に注入する、という治療が一般的に行われ、良い効果が出ています。

 
 膝に水が溜まる原因と抜く理由については次号で更にご説明します。

PAGE TOP