院長 平竜三のブログ診察室では伝え切れない、詳しい医療情報を語ります

女性と喫煙 その2

  • 2009.01.10

 タバコは女性の大敵です。

 前に述べたように、女性がタバコによる悪影響が大きいだけではありません。

 女性の場合、お母さんとして、赤ちゃんへの影響も男性よりはるかに大きいのです。

 
 最近では20代、30代の若い世代、すなわち妊娠・出産世代での女性喫煙率が増加していることは、きわめて忌忌しき状況です。

妊娠の問題

 タバコを吸う妊婦から生まれた赤ちゃんは、吸わない妊婦の赤ちゃんに比べ、体重が平均200g少なく、低出生体重児が産まれる頻度は約2倍高い傾向があります。妊娠中の喫煙は低出生体重児以外にも早産や妊娠合併症などいろいろな異常を起こしやすくなります。

 低体重や出産異常を起こす主な理由の一つはまずニコチンです。広く知られているように、ニコチンは体中の血管を収縮させ、血流を悪くします。そのため、高血圧や動脈硬化を引き起こすわけですが、子宮や胎盤の血管ももちろん収縮させます。胎児は胎盤の血流から酸素や栄養を受け取っているわけですから、ニコチンによる血流低下は胎児への栄養供給の不足をもたらし、発達が遅くなるのです。

 また、タバコには一酸化炭素も多く含まれます。一酸化炭素は、血中のヘモグロビンと強く結びつき、大事な酸素が結合するのを妨げます。タバコを吸うと、血液の酸素運搬能力が約10%低下することがわかっています。

 タバコを吸う妊婦は、ニコチンによる胎盤血流低下と、一酸化炭素による血液全体の酸素低下によって、胎児への酸素供給がダブルで低下します。

 胎児の体重が少ないだけではなく、神経系の発達などへの影響も懸念され、知能が低い子供になる恐れもあります。

 赤ちゃんが元気で賢い子供に育つことは、生まれた子供本人だけではなく、親の人生も大きく左右します。

 タバコは赤ちゃんに身体的や精神的な障害を負わせる危険が高いのです。妊娠中の喫煙によって、子供と母親が生涯に渡る重荷を背負っていく危険を高めます。タバコを吸う妊婦さん、そのことの重大性を理解していますか?

母乳への影響

 授乳中の母親が吸ったタバコの中にニコチンは、母乳に分泌されることがわかっています。しかも、なんと、母乳中のニコチン濃度は、母親の血中ニコチン濃度よりも濃縮されてしまうのです。乳児にして喫煙者と同じになってしまうのです!

 喫煙する母親から授乳された新生児、乳児は、不機嫌・不眠・下痢・嘔吐・頻脈など、ニコチン中毒症状がみられます。このまま続けていたら、精神や健康に重大な疾患をもたらすと心配されます。

受動喫煙の問題

 小さい子供のときに、親がタバコを吸っていれば、自然に副流煙による受動喫煙をしてしまいます。

 受動喫煙の影響は、子供が小さいほど深刻に現れます。その理由は、体が小さく抵抗力が少ないことはもちろんですが、子供は親のやることは悪いとは思わず、むしろ真似します。母親の世話を受けなければならない立場の小さな乳幼児では煙が煙くても母親を拒否することはできず、どうしても吸ってしまいます。母親は、子供の前では吸ってないつもりでも、部屋の中であれば必ず副流煙が立ち込めています。喫煙者は自分が吐きだした煙のにおいにはまったく気づいていない者が多いので、拒絶することができない赤ちゃんに対しても次第に無頓着になり勝ち。医学学会でも受動喫煙と小児に健康被害の問題は科学的に確証が得られています。

 
 受動喫煙が引き起こす、あるいは悪影響を及ぼす健康障害として、解っているものだけ挙げても次のような疾患があります。

  • 乳幼児突然死症候群
  • 気管支喘息
  • 学童期の咳・痰・息切れ
  • 肺結核
  • 注意欠陥多動性障害(ADHD)
  • 虫歯
  • 小児のガン ─ 特に白血病や脳腫瘍
  • 繰り返し、治りにくい浸出性中耳炎
  • アトピー性皮膚炎
  • 知能低下
  • 髄膜炎
  • ……など

 タバコによって、子供を苦しめ、母親も子供の障害によって長く悩み続けることになります。

 完全禁煙は母親の義務。女性は結婚したら、妊娠する前に必ず禁煙しましょう。

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