院長 平竜三のブログ診察室では伝え切れない、詳しい医療情報を語ります

交通事故被害の患者さんが医者から歓迎されない理由 その①

  • 2009.04.22

 交通事故で頚椎捻挫(ムチウチ)や腰部捻挫などの傷害を受けて病院を受診した被害者の方は、なぜしばしば医師から冷たく扱われ、多くの場合、適切な治療を受けられず半ば放り投げられてしまうのか?

 このブログではそのからくりを、交通事故診療の特殊性と、あまり知られていない医師の仕事の裏側を暴露しながら詳しく探っていきます。私は医師としての同業批判をしたいのではなく、現状の制度的な問題をこのブログで提起したいと思うので、敢えて書くことにしました。

不幸にして交通事故被害に遭われた方は、このブログを読んでいただければ適切な病院探しと効果的治療、それに適切な補償の獲得に役立つかもしれません。

生死に関る大事故で救急車で運ばれ、救急病院のICUに緊急入院させられたような場合を除き、痛いながらも自力で通院できる程度の交通事故被害患者さんを主な対象として話を進めますので、ご了承下さい。

歓迎されない理由(1):治療見通しが立てにくい

交通事故での怪我で最も多い状態は、いわゆる「ムチウチ症(鞭打ち症)」、あるいは頚椎捻挫といわれる状態です。

受傷後から後頭部、うなじ、肩の上部から背中付近にかけて、苦しい痛みや、コリ・ハリなどと表現される重苦しさが続き、時には、吐き気やめまい、頭痛、耳鳴り、抑うつ、などを伴い、ひどい場合には仕事を続けられないこともあります。

 その症状の重さの程度は様々で、軽い人は本当に1~2週間で気にならなくなりますが、ひどい場合には、上記のような様々な症状を伴いながら、半年以上も強い症状に悩まされることもあります。中には3年以上も慢性痛で苦む方もおられます。

頚椎捻挫の症状の重い例では、自律神経の異常や精神・感情状態の不調を伴い、「頚椎」だけでとどまらないので「外傷性頚部症候群」とも表現されます。

「頚椎捻挫」という言葉は、どうも「首の寝違え」や、「ちょっとひねった」程度で、「放っておけば自然に治る」ようなイメージをもたらす傾向があるので、適切ではないと思われます。

 何百人という交通事故の患者さんの臨床に直接携わってきた私の経験では、2~3週で治癒する人はむしろ幸運な少数派であるのが事実です。交通事故での頚椎捻挫は、意外と症状が長引くことが多いのです。

 では、短期間で治る人と、長引く人を分けるものは何でしょうか?

 症状残存の長さを決める要因としては、事故で受けた機械的衝撃力の程度、事故後の治療の質と量、精神的ストレスの程度、それに仕事による心身の負担などが重要です。そして、これらが複雑に絡み合うことで、同じ「頚椎捻挫」の診断がついた事故被害者でも様々に治療期間が異なってきます。

ですから、初診時では治療期間の見通しが立てにくいのです。

このことは、多くの外来担当医師が交通事故被害患者の診療を負担に感じる一つの理由です。

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