院長 平竜三のブログ診察室では伝え切れない、詳しい医療情報を語ります

交通事故に遭った後にかかる整形外科の選び方 チェックポイント④ 開院後、10年以上経過していること

  • 2019.03.05

交通事故後の治療で通院する整形外科の選び方。
チェックポイント その④ 
 開院後、10年以上経過していること

    1つの目安

    なぜ開院10年以上経っていることが望ましいのか?

    それは、交通事故の診療を十分に行うには、医院には次の4つが必要だからです。
    【1】医師の経験値が蓄積していること
    【2】医院スタッフの経験値が蓄積していること
    【3】信頼できる弁護士等とのネットワークを構築していること
    【4】損保(自動車損害保険会社)との信頼を得ていること

    それぞれに関して説明します。

    【1】医師の経験値の蓄積



    交通事故被害者さんの痛みやシビレなどの症状は、転倒やスポーツでの障害とは受傷メカニズムが異なり、痛みの性質も異なります。
    単に「休んでいれば勝手に治る」などと説明して、2週に1回、湿布と弱い痛み止め薬を処方して終わり、といった極めて薄い対応をする整形外科医(年配医師にその傾向)が多いようですが、これでは交通事故診療に関しては失格です。

    受傷初期からある程度積極的な鎮痛治療に介入して痛みなどの症状を緩和させる努力をすべきです。そうすることで患者さんは安心感を得られ、治療意欲も湧くのでその後の改善と職場復帰を早めることができます。


     交通事故の治療に当たる医師は医療知識だけでは不十分です。
     交通事故では大抵の場合は単独事故は少なく、加害者がいて賠償責任の問題となります。すなわち、法律や制度面の壁、お金の問題、仕事の問題、精神的問題などがいっぺんに事故被害者一人に襲いかかってきます。治療に当たる医師も医療的範囲を超えて、著しく広範囲で多数の課題を同時に処理していく必要があります。交通事故症例を扱う医師は、患者さんの身体的治療だけではなく、自賠責制度や法律の知識と経験も必須です。

     さらに制度面に関して言うと、基準として法律書に記載されている文面通りに解釈できないウラの意味も多数あります。それをどこまで「忖度」(そんたく)するか、というサジ加減は、長年の診療経験を積まないと身に付きません。

     私の経験から言うと、一整形外科医師が事故患者さんの診療に一通り慣れるまでには普通5、6年はかかると推定されます。
     更に本当の意味で治療に自信が付くまでには、10年程度の期間を要すると感じます。
     ちなみに、小豆沢整形外科は2005年に開設以来、一貫して交通事故診療に徹底的に取り組み、今年(2019年現在)で14年目になります。



    【2】 スタッフの経験値の蓄積



    医師だけが事故に詳しくなっても、交通事故の診療はうまく進みません。
    損保や弁護士などとの連絡、交渉、書類のやり取りなどがスムーズに進まないと治療が出来なくなるのです。特に受付スタッフの専門的知識が重要です。受付スタッフが交通事故治療の流れ、制度、法律、医療知識を豊富に持ち、うまく采配してくれることが、患者さんのその後の運命を決めることになると言っても過言ではありません。

    また、リハビリ室で各種物療・マッサージ・運動療法の質は大変重要です。交通事故被害者さんの症状改善を決定する大きな要素がリハビリ室治療スタッフの知識と技能です。

    治療スタッフは、交通事故後の症状は加齢による慢性的変性疾患とは違う、ということを理解し、整形外科医の指示の従って病態メカニズムに合わせた治療を、その日の患者さんの体調に合わせて実施してくれることが改善を促進します。


    <無資格の素人職員が患者さんに大雑把に電極を貼り付けるだけ>
    といった古いスタイルの医院に漫然と通っていても、交通事故後の厄介な痛み・シビレ・コワバリはなかなか緩和されません。

    医院スタッフが交通事故の病態や治療の知識を高めるには、医師を中心として、スタッフ全員との円滑で仲良いコミュニケーションが取れていることが必要です。院長・医師だけが威張っていて、スタッフが怖がって何も言えないようなピリピリした雰囲気の医院では、情報が共有されない危険があります。反対に医師の知識と責任感が乏しく、チームの緊張感が緩み過ぎていてもいけません。

    医院スタッフ全員に交通事故患者さんの臨床に関する知識が蓄積し、チーム全体として共有されるまでにはやはり10年程度の期間が必要です。



    【3】 弁護士等とのネットワーク



    交通事故は相手がいて、症状が長期化しやすく、治療費支払いと賠償責任問題が伴うことが多いので、しばしば係争(もめごと)になります。これらが被害者さんには大変大きなメンタルストレスとしてのしかかります。
    もめごとになった時に助けてくれるのが弁護士さんです。
    どうも相手損保が理不尽な事を言ってきて揉めそうだ、となった時、あなたは弁護士探しに検索をかけます。すると「交通事故に詳しい弁護士事務所」あるいは「交通事故専門の司法書士」などがたくさんヒットしてきます。

    ですが、ここでご注意下さい。ネット検索だけでは弁護士選びに失敗することがあります。検索に出てきた中には
    “自称”「交通事故に詳しい」と言いつつも、まだ経験不足でちょっと頼りない弁護士さんも少なからず混在しています。

    あまり批判はしたくないのですが、実際には交通事故に関する経験知識が浅かったり、弁護士が話を聞くのは初回だけであとは事務員しか対応しなかったり、損保と熱心に交渉してくれなかったり、といったあまりお勧めできない事務所も実在します。

    整形外科で交通事故診療を続けていると、事故の紛争をうまく対応をしていただける「頼れる弁護士先生」は誰か、が段々と解ってきます。任せられる複数の弁護士さんと確かな人脈が構築できるようになるまでにも頑張っても最低5年以上はかかるでしょう。

    ちなみに当院の場合、患者さんに安心して紹介できる弁護士先生5名と交流できるようになるまで医院開設後7~8年かかりました。




    【4】 損保からの信頼獲得

    加害者側の損保は被害者さんの治療費を加害者に代わって医院に支払う立場です。
    お金を支払うのは個人でも会社でも誰だってイヤですから、損保さんはできるだけ支払を少なく、短くしたいというのは仕方ないことです。以前は確かに「治療費詐欺」なんていうのも横行した時代もありましたから、支払いは慎重にしたいと考えている面もあるのも確かです。

    一方、医院側としては、患者さんの症状が残っていればできるだけ改善するまで治療行為を続けてあげたいと普通は医師の善意として考えますから、治療費の支払いを打ち切りたい損保側とはしばしばもめることになります。

    しかしそこで医療者側は、患者さんの症状があるからと言って漫然と治療を長引かせていては、損保から「あの先生は治療費請求で余計儲けようとしている」と思われてしまいます。損保から不信感を持たれて、ますます圧力がかかるようになり、そのしわ寄せは患者さんへも着てしまいます。症状が残っていても無制限で長期の治療費補償は受けられない、という制度の限界を知り、長くても半年から1年以内に元の生活に戻れるよう治療の計画を立てて患者さんを導いてあげる努力を必要なのです。

    損保からはしばしば「情報提供の請求」の理由で、書類記入や面談を求められます。
    日常がすでに大変多忙な医師としては書類や面談は大変面倒なのですが、それらを丁寧にこなして対応していくことが必要です。

    私は損保担当者に対しては、具体的には、
    この被害者〇〇さんは、本件の事故衝撃を受けて〇〇を○○のメカニズムで損傷し、だから今○○の症状が出ている。それに対して〇〇治療の治療を行っているが、更に〇〇の治療を追加で効果が期待できる。それを〇月〇日までは続けることにあなた方(損保)は同意して協力して欲しい。
    と説明しています。


    一方の事故被害に遭って通院中の患者さんに対しても、損保からの治療費支払いを受ける期間にも一定の区切りを設定しつつ、それまでの間に計画的に通院していただくよう、ご説明します。損保からの治療費支払いは無期限には延長できませんが、支払い終了の日までに残存してしまった症状に関しては「後遺障害診断」の等級認定とその補償額や慰謝料で補填してもらうことを目指していきます。

    地道なコミュニケーションの積み重ねによって、損保の社内でも
    あの整形クリニックではちゃんと患者さんを診てくれているし、不正請求もしていない。いたずらに治療期間を長期化させず、我々損保の立場も理解してくれているようだし、患者さんも概ね良くしなっているようだ。通院はあそこに任せておいて良いだろう。
    という信頼感を得られてくるでしょう。

    複数の損保会社からの信頼されるクリニックになると、患者さんにとっても治療費トラブルが減ることになり、安心して通院できることに繋がります。

    損保会社はたくさんあるので、損保との相互信頼関係の構築までには整形外科開設して最低10年程度は必要、と私は考えます。

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