院長 平竜三のブログ診察室では伝え切れない、詳しい医療情報を語ります

交通事故に遭った後にかかる整形外科の選び方 チェックポイント⑤ 十分な交通事故治療経験数があること

  • 2019.03.10

交通事故後の治療で通院する整形外科の選び方
チェックポイント その⑤ 
十分な交通事故治療経験数があること 



整形外科医は一体どれくらいの交通事故治療経験があれば「十分」と言えるのでしょうか? 
あくまで私の私見ではありますが、交通事故患者さんの「診療経験数1,000人以上の整形外科」は医院選びの一つの目安かと考えます。


なぜそう言えるのでしょうか? 
私の今までの個人的な臨床治療経験を振り返ってご説明します。


私の場合、来院された事故患者さんの治療経験がおよそ300~400名増えるごとに自分の中で治療技能が段階的に向上してきたように感じています。


【第1段階】 交通事故の治療経験 1~300名


 交通事故患者さんを受け入れた最初のうちは、
・なぜ病態が複雑でわかりにくいのか? 
 ・なぜ画像検査所見と症状が一致しないのか?  
 ・なぜ慢性化する人が多いのか? 
 ・なぜ事故の患者さんは訴えがこんなに多いのか?

がなかなか理解できませんでした。

 それも当然で、交通事故の病態や症状は教科書に載っているような普通のケガではなく、医学部の教授もほとんど病態を知らないくらいなので、医師が教わる機会がほとんどないのです。

 医師にとって交通事故診療の経験が浅い最初のうちは、とにかく実際の患者さんをよく観察し、医師としての思考をフル回転させて考えつつ、効果的治療を試行錯誤して探っていくしかない段階です。もちろん、本や論文も読んで神経生理学や病理学を学びますが、それだけでは交通事故の病態は決して理解できません。患者さんから直接学ぶことが近道です。

 そして治療経験数が300人に近づいた頃、効果的な治療法の手応えをやっと少し見いだせてきました。そして、交通事故でよくある症状の辿る経過をイメージすることができるようになってきました。

 しかし、患者さんの症状は様々です。やや典型的ではない症状を持つ患者さんについては治療方針の選定に戸惑い悩むことも稀ではありません。私の体験を振り返ると、治療人数300人未満の時は、まだ交通事故治療家としての強い自信や確固とした方針を持つには至っていませんでした。
 そのため、損保(=保険会社)からの病態や治療法の問い合わせがあった時に、治療の有効性と妥当性を強く明快に説明ができないことがありました。そのため損保に押し切られ、まだ治療継続が必要な患者さんに対してさえも治療費支給が打ち切られてしまうことも度々ありました。患者さんは途中で放り投げられた格好になり、大変困ることになります。

【第2段階】 治療経験 301~600名


私の経験では、治療経験300名を超えて、600名に近づいてくると、ようやく自分なりに、交通事故の様々な病態に対してある程度理解できるようになってきました。

損保に対しても
「この患者さんは、本件事故で〇〇に衝撃を受けて今の神経症状が出ている」
「だから〇〇の治療が有効と考えられ、行っている。」
「3か月通院して、〇〇%程度の改善が得られている。」
「仕事も日数を減らしつつも復帰の許可をした。」
「今後はさらに〇〇治療を継続すると、〇〇%くらいの改善が強く期待できるので、さらに〇か月の治療が必要である。」

のように、明確に伝えられる自信が付いてきました。

 しかし、事故案件が増えてくると、また別の問題が出てきました。
 それは書類処理の重い負担です。

 後遺症診断書やその他損保から執拗に要求される病態問い合わせ書類が急増し、書類作業で多大な時間と労力が消耗されるようになりました。初めのうちは様々な書類への適切な回答法がよく解らないために非常に大きなストレス源となりました。

 自分だけではなく、事務方スタッフの負担も大きく増え、院内全体が余裕なく、体調を壊したり、人間関係が悪化したりすることもありました。
 この段階が、交通事故治療を専門とする整形外科としては最も苦しく困難な時期かもしれません。

 ですが、ここは何としても乗り越えなければいけない山です。


【第3段階】 治療経験  601~999名


 第2期を乗り越えるには、医師の学習努力のみではなく、院内スタッフ全員での情報共有の仕組みや書類ワークフローの仕組みを整えていくことが必要です。
 時に自動車保険の専門家を呼んで学ぶことが、書類処理の効率化と損保への対応スキル向上にもつながります。

 また、弁護士さんや司法書士さん、社労士さん、接骨院・整骨院など、院外での協力者の皆様との連携を深めていくことも必要です。

 当院の場合、交通事故治療患者数900名を超えた頃、スタッフ全員のチームワークによって事故関連書類の処理能力が上がり、事故患者さんが受け入れが増えても滞りなく手続きを進めていけるようになってきました。患者さんや損保に対しても書類でお待たせする時間が大幅に短縮されました。


【第4段階】 治療経験数 1,000名~


 当院では事故の治療経験が1,000人を超えてようやく、当院にも良い意味で慣れと余裕が出てきました。様々な患者さんの治療経験値の蓄積によって大抵の患者さんを改善させてあげられる、という自信と「度胸」が付いてきました。

 それぞれの患者さんの個々の状況に応じて、
『この患者さんは、あの患者さんと病態タイプが類似しているので、こういう治療方針で臨めば素早く改善に向かうはずだ。』
『この患者さんが抱える法的トラブル解決には、あの弁護士さんが適任だ』

などの判断がスタッフや院長で素早くできるようになり、患者さんが増えても悩まず対応できるようになります。

 事故患者さんへの対応のみではなく、損保との関係も円滑になってくる段階です。
 損保の立場や社会全体の動向、法制度の裏事情なども解るようになってきました。
 事故患者さん経験数が1,000人を超えた現在、事故後の身体的症状への治療だけではなく、患者さんの生活・人生をトータル的に見て社会復帰を支援できるよう、広い視野で患者さんに接することができるようになってきました。

 ちなみに当院小豆沢整形外科では、平成17年開院後、平成31年初頭の段階で交通事故患者さんの治療案件はのべ約1,200名。そのうち後遺症診断書作成枚数500枚以上です。




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 あなたがこれから通おうかな、と思っている整形外科の担当医の交通事故治療経験数を知るにはどうすればよいでしょう? 

 通常、そういうことはホームページ上では公表はされていませんから、受付電話をかけて予約相談をするときに、それとなく尋ねてみるしかないでしょう。
 優秀で学習速度の速い整形外科の先生もいらっしゃいますから、治療経験が必ずしも1,000人以上が必要というわけではありません。
 けれども、治療経験数が増えるほど院内全体として経験値が増えるので交通事故治療の質も向上していくと私は考えます。



 電話受付で「当院では〇百人くらいです」のような答えがすぐに返ってくれば、その医院はスタッフ全体で交通事故診療に熱心に取り組んでいると推定されます。
 通院先候補に挙げて良いでしょう。

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